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エッセイSP(スペシャル)

逝く人

冴木 あさみ

2023年12月 4日

 その人はひまわりに例えられた。俳優夏目雅子。自宅の庭の青々とした芝生の上に座る彼女の笑顔は、しかし、ひまわりよりも輝いてそこに咲いていた。
「私からプロポーズしたんです」
 取材陣に向かって確かそう話していた。幸運な相手男性は、伊集院静である。彼にとっては二度目の結婚。業界ではダンディーなモテ男と有名だったらしいが、彼が作家として世に名を馳せる前の話である。
 悲しいことに二人の結婚生活は一年足らずで終わった。
 そして、三人目の妻は篠ひろ子。またもや美女の心を射止め、女の私でも嫉妬するほどだった。
 そんな彼が十一月二十四日、夏目雅子の元へと旅立った。癌治療のため、暫く筆を置くと公表してから僅か二か月のことだった。その訃報にだれもが驚いたことだろう。七十四歳。幕を下ろすには、まだ早い。
 今年も惜しまれて亡くなった有名人が何人もいる。しかも平均寿命に満たない人がここ数か月で亡くなっている。
 人生百年時代といわれているが、日本人の平均寿命が若干下がったという直近のデータもあるようだ。コロナ禍も影響しているのだろうか。掲載を希望しない人も結構いるとのことだが、新聞のお悔やみ欄を見ても百歳以上が目立つほどでもない。
 現在八十歳以上は、過酷な戦火をのがれ、飢えや寒さ、疫病などでも淘汰されなかった人々だ。彼らをピークに、以後徐々に平均寿命は下がっていくのではないかと私は思う。
 私が子供のころは栄養面で改善されつつも、添加物盛りだくさんの食品をお腹いっぱい食べて、公害で汚れた空気を胸いっぱい吸い込んで、職場でも家でも受動喫煙。除菌という概念もなく、和式トイレで育ってきた時代。学校では年一回の検便があり、ギョウチュウ駆除の薬が必要な子がクラスに何人かいた。振り返ると、長生きできる要素があまり見つからない。
 医療が健康をもたらすならばそれに越したことはないが、死なせないことに価値があるとの解釈ならば、医療の進歩は残酷だと捉えられる場合があっても致し方ない。
 先日書店で背表紙の題名を目にして、思わず「おぉ」と声が出た。
『どうせ死ぬのになぜ生きるのか』名越康文著。
 インパクトが大きすぎる。
 私たちは果てしないとも思える『今』を精一杯生きるしかないこと。そしてその時が来たらあらゆるものに別れを告げること。それだけが現実である。
 井伏鱒二の訳した漢詩『勧酒』は、大学生だった二十歳の私には何の意味もなさなかったが、還暦を過ぎた今、深い意味を持って心に染みる。究極のところ、さよならだけが人生だ。

◎プロフィール

〈作者近況〉さえき あさみ
今年初滑り。と言っても凍った道路で転倒しただけ。咄嗟に身をかわし怪我もなかった。まだまだいけそうな私である。

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