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エッセイSP(スペシャル)

のれん・・

たかやまじゅん

2023年10月16日

 単身生活をしていた時は主に外食だった。住まいは名古屋駅から地下鉄東山線で15分、下車駅の覚王山周辺で夕食の摂れる店を探した。
 最初に目に入ったのが風に揺れる赤いのれんで、うどん〝玉屋〟と書かれてあった。扉を開けると鰹節と醤油のいい匂いが空きっ腹を刺激する。そしてこの日を境に行き付けの店となった。店は私と同い年の3代目の隆ちゃん(隆敏)夫婦に、「母さん」と親しまれた大女将が切り盛りをし、創業は大正2年(1913)だそうな。
 定食は麺類にご飯と日替わりで一品付く。最初の時、『大盛り』を頼むとご飯が山のようでビックリ。周りに大学や独身寮も多いことから、大盛りが自慢のかつ丼の店としても知られ、具とご飯が別盛りの逸話はたびたび新聞やテレビで紹介されていた。こうして仕事で遅い日や帰りの飲み会が無い限り、「ただいま~」と暖簾を潜るようになる。その頃、跡継ぎと目される拓哉君は学生であった。
 周辺は駄菓子屋におもちゃ屋など昭和の面影を遺す商店街で、明治時代に創建されたタイ王国と日本を結ぶ超宗派の覚王山日泰寺の門前、毎月21日の弘法大師の縁日には、どて煮や串カツ、履物など露店が開かれ、早朝から人波で賑わった光景も懐かしい。
 いつしか我が家のように過ごして8年、離れた今も名古屋に行くと、旧交を温めてきた。令和2年(2020)の年賀状で「店を直すので夏に休業する」と添えられあり、8月には閉店したと聞いた。昨年は12月に新築開店したと書かれてきたが、コロナの自粛であったことから行かず仕舞いだった。
 そして今年9月に名古屋を訪れた際、覚王山駅に降り立ち通りに目を遣ると、商店街は大きく様変わりしていた。今はスィーツやショップなどの人気スポットとして、モダンな建物が立ち並び、覚えのある場所には菓子店があり戸惑ってしまう。やがて奥まった処に認めると、暖簾の向こうに3代目女将の笑顔が見えた。
 今年は110年の節目にあたり、母さんが引退し、隆ちゃんも体調を崩したので、息子夫婦に任せたと話が盛り上がる。厨房の拓哉君にきしめん定食を注文、おかずが好物の小アジのフライだ。
 きしめんは鰹節の出汁が効いた味で、一瞬のうちに舌の記憶を甦らせ、4代目が職人として確り味ののれんを伝えていることが私の胸を熱くした。

◎プロフィール

真夏は日影を求め歩んでいたが、季節がせめぎ合い秋になり日向を求めるようになった。もう足元には枯葉が舞い始めている。

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