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エッセイSP(スペシャル)

さようなら不発の五月

冴木 あさみ

2023年6月 5日

 五月からマスクの着用が個人の判断によるものとなった。それに小躍りして、一気にタガが外れたわけではないが、無意識に気が緩んだのだろう。連休明けから突然体調を崩し、胃痛、風邪、腰痛、膀胱炎と、芋づる式にあらゆるものに負け続けた。
 中でも膀胱炎は生まれて初めての経験。それまで周囲に膀胱炎を繰り返す人が何人かいて、話だけは耳にしていた。漠然と不衛生な人がなる病気ぐらいに思っていたので、自分とは無縁の病気だと関心もなかった。不衛生な人の病とは全くの偏見である。膀胱炎で現在苦しんでいる人には申し訳ない。でも私も患ったことで許してほしい。
 経験者語る。排尿後の痛みですぐに膀胱炎だとわかるとのこと。でも私は痛みもないし、なにしろ当初自分が膀胱炎になるわけがないと信じていたために、受診が一週間遅れてしまった。泌尿器科を訪れたのは、出血があったため悪性腫瘍を疑ってのことだった。
 エコー検査から始まった。やけに長い検査に不安が募る。膀胱の中に数えきれない腫瘍がぎっしり詰まっているのを想像して頭がくらくらしてきた。
「ハイ終わり。次は腎臓のエコーとりますね」
 腎臓にまで転移しているのか? 恐怖を通り越して、いっそどうでもよくなってしまう。死んでもいいから辛い治療は辞退しようと半ば諦め、不貞腐れる。
 土曜日の午前最後の受付だったので、検査が終わった時点で待合室には誰もいなかった。消音のテレビではG7広島サミットの様子が映し出されている。どの国も大変だ。世界が一丸となって地球を守るべき時代が来たというのに、大国と言われる国が侵略戦争を始めるとは、想像もしていなかった。
 東北で生まれ育った母は、大切な青春時代を戦争に奪われた。敗戦間近に配給になった僅かな藁パンを口にして、人間の尊厳というものに悲哀を感じたとのこと。藁パン。その名のごとく藁を挽いて焼いただけのパンだ。それでも生きてさえいればどうにかなるのだ、生きてさえいれば。
 そんなことを思いながら、ぼんやりと窓の外に目をやると、辺りは初夏の日差しにすべてが輝やいていた。
「白血球の数値が高くて、膀胱炎ですね」
 医師に抗生物質を出すからと軽く言われ終了した。さっきまで脳を占領していた人生の憂いはどこへいったのか「今日のランチは焼肉とビールだな」と、軽くなった足取りで飲食店街へと向かう。美味しいものを食べて、やりたいことをやる。簡単なようで結構難しい。だから明日に希望を持つのかもしれない。

◎プロフィール

今年の五月は棒に振ってしまった。いい季節にもったいない。六月はリベンジだ。

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