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エッセイSP(スペシャル)

潮騒・・

たかやま じゅん

2023年2月20日

 日本は島国であり四方を海に囲まれ、人びとは波に乗り移動を繰り返しながら大地に根を生やし、文化や歴史を築いてきた。
 私の生家は、潮風が吹き抜ける小田原の海岸沿いにあり裏手は一軒置いて堤防、その向こうは砂浜が拡がり、相模灘から打ち寄せる潮騒を子守歌に育った。物心付く頃は、砂の上で野球に興じ、波打ち際に飛んだ球を拾う時、引き波に足元を取られそうな怖い思いをしている。
 近隣は漁師町で、夏休みの楽しみが地引網の手伝いであった。朝日に光る海、冷えた素足で引いた地綱のご褒美は、船頭さんが桶からこぼれんばかりに生きたシラスをアルマイト製のボールにすくってくれた。
 そしてお盆を迎える頃、浜辺に組まれた盆踊り櫓から提灯の火影が寄せる波頭に揺れ、海上から一条の光がヒュルヒュルっと尾を引き、頭上高く上がると夜空が彩り、漆黒の波間に大輪の花が映る美しさを思い出す。今も海を見つめる度に、海は広いな大きいな・・と口ずさみ、大波や青い波に胸がときめく。
 昨年上京の際、秋葉原からJR特急新宿さざなみ号で房総半島まで行った。海岸線を辿ると木更津から富津市に亘りコンビナートが集積し、車窓から目を遣ると白波の向こうに薄っすらと富士山の影が写る。帰りには夕陽で染まる地平線に赤い富士が浮かび、まるで北斎の画を思わせた。
 海を眺めていると、これまで訪れた日本各地の波の音に思いを馳せる。この海には、穏やかな漣もあれば、時として荒れ狂う大波も起き、これは自然の営みに他ならず、災害をもたらすことも少なくない。波は人の一生に置き換えられ、時には大きなうねりに揉まれたり、逆波に煽られても人生と言う舟の櫓を必死に漕いで来た。
 例年、冬の朝は雪かきが日課で、12月の重たい雪に腰を痛めてしまう。掛かり付けの整形外科で診て貰うとリハビリを勧められ、施術室にはウオーターベッド型のマッサージ器があった。その台に乗るとゆらゆらと揺れ、横になりスイッチが入るとローラーが振動をし始めて、肩から背中と腰を行ったり来たりする。
 ものの10分だが、波の瀬を小舟で漂うような心地好さに思わず目を閉じると、自然と幼い頃に聴いた潮騒が脳裏に甦り、気持ちが癒され深い眠りに誘われてしまうのだった。

◎プロフィール

〈このごろ〉読んだ本が棚に収まらず、床に積んである。処分しなくてはと思いつつも更にその上に重ねた。いつになったら片付くのやら・・

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