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エッセイSP(スペシャル)

引 き 際

冴木 あさみ

2022年8月 1日

 潮時、引き際を見極めるのは簡単なようで難しい。独断できる場合はいいが、置かれた状況との兼ね合いもある。「もうや~めた」と仕事仲間に迷惑をかける人は困る。
 先日私の福祉事業所の調理担当員が突然辞めた。まだ六十代半ば。ある不安材料を抱えながらも、常々七十までは頑張るという彼女の言葉を信じ、万が一への対策を怠ったのは反省すべき点だ。
 七年間ほど週二回調理員として勤務していた。ベテランと言っていい。しかし、ここ二年ぐらい、彼女に異変が見られるようになった。そう感じたのは私だけではない。彼女と接する人それぞれが心のどこかに疑問符を抱いていた。
 調理職員は二人の交代制。季節の特別メニュー以外は、定番メニューを月一回のローテーションで提供している。特に人気は五目御飯とハンバーグ。外では味わえない逸品だ。それにも拘らず、毎回彼女の次月の献立案から消えている。
「みんなもう飽きたでしょ?」と、彼女の弁。
 毎月皆が楽しみにしているメニューだからと、予定表を手に毎回同じ押し問答。説明する人の疲労感は半端ではない。
 時間内に準備を終了させるのも難しかったが、そこは補助をつけることで解決できていた。しかし、調理は手順。作業時間の配分も以前より狂い出し、無駄な動きも多くなり、さらに分量に関しても判断ができない様子。
 出勤者が少なく、提供数が大きく減っても、惣菜やみそ汁を大量に作り余らせてしまう。
「食材も高騰していることだし、次回は分量に気をつけようね」
 調理室の事は調理担当者に任せているのだから、私はこんなことを言いたくはない。言われる彼女は気分が悪いだろうが、言わざるを得ない私の心と体が、重量感のある得体の知れない闇に包まれることを誰が知ろうか。

 惣菜を大中小どの皿に盛りつけるのか、皿の種類が多いわけではないのに相談しなければ決まらない。段取りが悪いせいか、使った鍋や器具がシンクに山になる。別の担当者からは、調味料が残っているのに新しい瓶を開封したり、野菜を腐らせているとの報告を受けた。
 どうもおかしい、と誰もが口にするようになった。
 仕事を辞めて家にこもれば、様々な機能の低下は更に進むだろうと案じ、できる限り援助しながら様子を見ようと決めた直後の、突然の辞職。職員からは勝手だとか、無責任とかいう意見も出たが、火傷や火事を出さずに終えたことに感謝しようと締めくくることができた。
 人は皆衰える。シニアが出来る限り長く働ける社会を目指しているが、衰えの個人差は決して小さくはない。人生百年という言葉に惑わされてはいけない。いつまでが自分の人生といえるのか改めて考えさせられる。

◎プロフィール

さえき あさみ
これでもかと暗い報道ばかりで、ニュース番組を見なくなった。英国ドラマを繰り返し観る日々。

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