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エッセイSP(スペシャル)

たこ焼きと生ビール

冴木 あさみ

2021年11月 1日

 コロナ新規感染者数が激減し、緊急事態宣言が解除になった。私は運がいい。ちょうど十月初旬に私用で関西に行く用事があったのだ。直前まで飛行機の予約を迷っていたが、急転直下の好転だ。とはいえ、感染しないという保証はない。ヤッホーと騒いではいけないのだ。緊張感と旅の高揚感。二つの感情が螺旋状に入り乱れる。
 古都はそこかしこに歴史を感じ、細い路地裏一つ一つが面白い。時間を忘れて歩き回ったある日、早めの水分補給(晩酌ともいう)を取ることに決めた。まだ時短営業中だったので、六時前には店に入りたい。半日水分を取らず歩いていたことに気づき、一層喉の渇きが強くなった。早急に店を決めねば。とりあえず、液体だけでもいい。レストラン街を見つけ急いで店を物色する。イタリアン(ワイン)ではない、和食(日本酒)は後にして。今は何といってもビール。なにしろ一年近く「生」を飲んでいない。頭の中で叫びながら看板をチェックする。
「たこ焼き」
 これだ。たこ焼きに冷えた生ビール。最高のマッチング。
 客は誰もいない。時間的にどの店も空いていて、感染リスクは極めて低い。定番たこ焼き8個入と、生ビールを注文する。支払いの後念入りに手指をアルコール消毒して席に戻ると、若い男性店員が缶ビールとプラスチックコップをテーブルに雑に置いた。
「あら、缶じゃなくて、生ビールを頼んだのよ」
「これ、生ですよ。ほら」
 茶髪の彼は缶の側面を指さした。銀色の缶に黒字で生と書いてある。そんなのインチキじゃない。メニューには缶なんて記載されていない。生ビール五百円とあれば、誰でもサーバーからガラスの器に注がれるものと思うじゃない。ジュワーッとジョッキに金色の液体と白い泡を満たすあの光景こそが生ビールというものじゃない。
 要らない。お金返して。たこ焼きもキャンセル! なんて、思ったけれど言えない。そこまでささくれてはいない自分の心に安堵。三十パーセントぐらいの後悔と落胆と足の痛みを感じながら飲む缶ビールは苦かった。
 次に、たこ焼きはどうした。お兄さんタコ壺引き上げに出かけたのかと思うくらいの時間を経て、目の前にやってきた。早くこの店出て仕切りなおしたいと思いつつ一つ頬張ると、これがなんとまあ、実に旨いのだ。タコの大きいこと。生地はふんわりと滑らかで出汁がきいていて、関西のたこ焼きは違う。こんな店でも確かな品質。関西万歳。出汁文化万歳。私は今関西にいる。
 札幌に帰ってきて、スーパーなどの酒類コーナーで、銀色の缶を見つけると価格に目が行く。どの店でも二百円前後で売られている。微かな悔しさと、たこ焼きの味が蘇る。

◎プロフィール

さえき あさみ
たこ焼きを食べると、決まって口の中を火傷して上あごの粘膜が一枚剥がれてしまう。

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