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エッセイSP(スペシャル)

熟す・・

たかやまじゅん

2021年10月18日

 秋の味覚と言えば、薩摩芋に栗と秋刀魚や鮭。果物なら葡萄や梨に始まり林檎、そして柿が美味しい。柿の中でも手に取った瞬間、思わずギュっと力を入れると指がめり込むような、熟した柿は大好物ひとつ。
 子供のころ、小田原の在にあった祖母の家で、庭の柿の木に実が生ると「柔らかい柿、ちょうだい!」と訪ねるのが待ち遠しかった。やがて冬が近付くと軒先に干からびた柿が並んでいて、これは渋柿を焼酎で浸し吊るしておくと、甘い干し柿が出来ると識った。もちろん旬の柿も好きなのだが、今でも皮が柔らかく実がトロトロになった熟柿を口にする時、これまでの来し方が浮かんでくる。
 かつて受けた新入社員教育で忘れられない言葉が、「実れば実るほど頭を垂れる稲穂かな」であった。稲の一生は田を耕し、植えた苗が伸びると青々した稲穂が風にそよぎ、風雨を乗り越え黄金色に染まるまで、自然の恵みと人の手を煩わせた。人間も同じで、若い頃は前方しか見えないが、周囲が手を差し伸べ支えられながら苦難を乗り越え成長する。この育てられたことに頭を下げる謙虚な姿勢こそが、一番大切なのだと教えられた。
 物も熟すことがあると言ったのは、漫画家のジョージ秋山さんで、「読めない本は、積んで置くと本が発酵し読み易くなる」と何かに書いてあった。確かに読み始めた本が先に進めず、暫くして目を通すと面白さで一気に読めた。それは自分自身が成長したことになる。
 昔の映画が、映像ソフトや配信から身近で鑑賞出来るようになり、改めて観ると細部まで分かり、若い時に比べ受け止め方が違っていた。数年ぶりに聴いた歌をラジオで使ってみると、放送の終了後に届いた感想で「いい歌ですね」とあり、保存したことで曲が艶を醸したのかもしれない。
 こうして、観たこと聴いたことが自分の知識として膨らみ、新たに見聞きする際の視野が拡がり好奇心が沸いてきた。人や物も自然に熟すだけでなく、多くの力で味わい深くなる。幸い喋る場と書く機会を与えられ、これまで培ったことを活かせるのは、まさに私の〝機が熟した〟と言えるのではなかろうか。
 さて、件の熟れた柿を、皮ごとガブっと頬張る瞬間は口福の極みだが、指や口の周りは果肉だらけ。オマケに胸元から膝も果汁で赤くしている私は、まだ・・未熟!?

◎プロフィール

〈このごろ〉この間まで日影を探して歩いたのが、今は日向を好んで歩くようになった。着る物も冬物を羽織り、居間にはストーブが点る。

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