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エッセイSP(スペシャル)

生きる権利

冴木 あさみ

2021年9月 6日

 心理学の応用だという。人の心を読んだり、錯視や誤認へと誘うテクニックを使う人がいる。メンタリストと呼ばれるらしい。対象者のほんのわずかな反応を見逃さず、蓄積された心理学の情報を基に分析する、極めて頭脳明晰なパフォーマーだ。
 メンタリストの冠を手にして一躍有名になったのはDaiGoだ。テレビの中の彼は真に魔法使い。視聴者すべてを唖然とさせた。そして彼は最近、生活保護者やホームレスに対して、人命を軽んじる持論によって更に多くの人を唖然とさせてしまった。
 口から出てしまったものは、消せない。心理学を熟知する彼がその後の展開を想像できなかったはずはない。当然怒涛のバッシングを受け、厚労省が生活保護は国民の権利とのコメントを出すまでになった。
 改めて生活保護とは何か。健康で文化的な最低限度の生活を保障し、その自立を助長するために、困窮の程度に応じ必要な保護を行う制度で、受給者は全国二百万人以上。
 福祉の仕事をしていると、受給者は周囲に何人もいるので、その生活を見聞きする。それゆえ、この制度に関して考えさせられることも多々ある。
 保護費を賭けごとに浪費する実態が報道されれば、誰もが怒りや疑問を抱くに違いない。終日パチンコできる体力があるなら働けと。不正受給者は論外だが、数字的にはごくわずかという報道は積極的にされない。現役時代全収入を豪遊で使い果たし、リタイア後生活保護にシフトした夫婦もいる。それが彼らの壮大な人生計画と聞かされ言葉を失った。論外というより例外に分類したい。奇想天外なお金の使い方もあるものだ。
 貧困の根というものは実に様々でしかも深い。理解不能なこともある。生活保護に否定的な意見を述べる人の心の内は、優勢思想者ではなく、原資は税金なので大切に使ってほしい、どんな状況であっても働く意欲を持ち人生を諦めないでほしいという気持ちなのだと信じている。最期のセーフティーネットはあらねばならぬ。人生ほど思い通りにいかないものはない。運命の前には無力であることを誰もが知っている。
 長きにわたる貧困は諦めの人生につながり、年齢が上がるほど社会復帰能力は弱まり、最低賃金で働くよりも生活保護の道を選択するに至るのは当然だ。生老病死というが、生きる苦しみと責務と不条理は、人類が存在する限り答えは出ない。
 一億総中流という時代があった。経済というのは波のようにいい時と悪い時が交互にやってくるものだと思っていたが、私が生きている間そんな時代がまたやってくる予感はない。

◎プロフィール

さえき あさみ
宮本輝『流転の海』全九巻を読破し、今呆けている。

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