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エッセイSP(スペシャル)

煩 悩

冴木 あさみ

2020年9月 7日

 人混みを避ける生活が日常になった。元々お店回りは好きではないので、家―職場―スーパーマーケットのトライアングル生活も苦ではない。withコロナ報道で、経済も動き始めたが、世の中自分のような人間ばかりだと経済回っていかないだろうなと思う。もっとも、私の消費額などたかが知れているので歯車のほんの一部にもならない。ここはたくさん収入のある人と資産を持つ人達に大いなる期待をするしかない。
 通勤時、ウォーキングがてら地下鉄一駅分歩くのだが、居並ぶショップには溢れんばかりの商品が陳列されている。地価の高い場所で、家賃や人件費、諸費用を支払ってもやっていける収益があるのがすごい。あんなに無数の商品があるのに、自分には欲しいもの、必要な物が無いというのも、ある意味すごい。
 五十を過ぎてから、玄関の中に入れる物は最終的にゴミになると自分に言い聞かせ、物を買わなくなったせいもある。新しい物への執着心は薄れ、古いものをとことん使って始末する。たまに煩悩から解放されたような気がする。百八つあると言われる煩悩を捨て去った境地が仏なら、私は仏に近づいたのかとほくそ笑む。が、決してそんなことはない。欲しいものはないけれど、手放したくないものはたくさんあるのだから。
 最近新たに採用した職員がいる。四十代の彼女は自分の技術を活かして若い時に発展途上国で数年間支援を行ってきた。任務を終えても何度か違う立場でいくつかの途上国を行き来してきた。おかしなことに、そういった貴重な経験は「レールを外れた人」という烙印を押されるだけで、よほど特別な技術を持っているか、或いは強い人脈がなければ、その後安定した職に就くことは日本では難しい。
 彼女も最終帰国後、日本での仕事にはあまり恵まれなかった。心身きつい年月を過ごしてきたので、収入が少なくても好きな仕事をミニマムでやれればいいと言う。有能なので正職員への移行も勧めているが、今のところいい返事はない。日本での価値観が自分には向いていないので、将来的に小国に移住してそこで果てるつもりでいる。両親亡きあと実家も処分して、墓じまいもして、家具を持たず最小限の生活。いつかトランク一つで片道航空券を手に日本を発つために。
 究極の断捨離を経たミニマリストの本を読んだことはあるが、ついにそんな人に出会ってしまった。思い出の詰まった手放したくない物に囲まれた自分は、煩悩の塊である。

◎プロフィール

今年の猛暑はビールよりもスイカで凌いだ。空缶回収の袋の中身が健全で清々しく思えた。

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