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エッセイSP(スペシャル)

手繰る・・

たかやまじゅん

2020年2月17日

 地下鉄南北線大通駅南改札口の近くに立ち食い蕎麦がある。ホームの階段を上がると甘辛い匂いが小腹をくすぐり、札幌オリンピックの前年創業といわれる「HINODEそば」に、思わず足が向いてしまう。
 かつて、社会人となり最初に配属された事業所は、神田の古書街に近いビルにあった。独身寮からの通勤には、お茶の水駅を利用していた。初出社の日、まず先輩から教えらたのは、改札口脇の立ち食い蕎麦に寄ることだった。のれんには「辰巳庵」とあり、この時から50円の天玉そばが朝食替わりとなる。
 やがて、営業に携り新宿のデパートを担当した。都内でも有数の繁華街で、食事を摂る処には事欠かないが、新宿駅の東口と西口を往ったり来たりの毎日は、時間に追われて昼食を抜くこともしばしば・・。ある日、同行した上司から「昼は蕎麦を手繰ろう」と連れられたのが、立ち食い蕎麦の「梅本」であった。
 こうして仕事の合間に短時間で、しかも安くて済む私の立ち食いソバ歴に拍車が掛かって行く。夏は汗が噴き出る熱いのを避け、冷たい盛り蕎麦を手繰る。落語や捕物小説には蕎麦の話も多く、江戸時代の大工が、土壁の強度を保たせるために塗り込む下げ縄を手繰り寄せたことから、蕎麦を下げ縄に見立てたのが〝手繰(たぐ)る〟に由来するそうな。
 同じそばでも、中華そばと呼ばれたラーメンも立ち食いのひとつ。残業した夜、駅に向う道すがら、提灯に〝支那そば〟と書かれたのを眼にして、裸電球の点る屋台に吸い寄せられる事も少なくなかった。ラーメンに比べると細麺であっさりした味だったと記憶する。
 さて大通駅の立ち食いソバだが、以前の天ぷらには具が入っていなかった。それが野菜たっぷりの天ぷらに変わり、天玉そばが440円。生卵を混ぜると熱さが抑えられて、天ぷらの旨味が甘さを出し食べ頃になる。ただ薬味の唐辛子が、北海道では〝なんばん〟と呼ばれる一味であり、子供頃から七味に馴染んできた私の舌には、物足りなさを感じていた。
 以前、落語家の桂歌丸さんがテレビ番組の中で、七味唐辛子を蕎麦にふりかけ、タレにちょっとつけて手繰ると蕎麦が引き立つと言うので試してみたら、なるほどと合点がいく。

◎プロフィール

〈このごろ〉大河ドラマが明智光秀になり、戦国時代を背景の新刊小説も多い。今まで数多読んできたが、直ぐ溶け込めることからつい買ってしまう。

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