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エッセイSP(スペシャル)

スポットライトの下で

梅津 邦博

2019年8月19日

 5月、気温が高くなってきた。冬そして春のまだ風が冷たい時期とは違うのだ。脚が何となくちょっと浮足立っているかのような気がする。本当は生業が芳しくない状態で大変なのだが、閉塞感に覆われているような日々にどうしていいのかとにかく脱出したくてしょうがない。受注が取れず、成績は最低だった。聴力が弱くて口下手で、というそんなことのせいになどしたくはなかったが、仕方がなかった。たいした努力などしていないことにどうしようもなかった。能力もないのに時期を待つなんて最低だった。
 気分転換をしたくて逃げるように出かけた。ある日の土曜日の昼。ロクにカネもないのに札幌へ出張という名目で行くことにした。中古のカローラを駆って、魔の街道と名高い274号線日勝峠を走り、日高町、鵡川町、千歳市、をぶっ飛ばして行った。気分が高揚していた。当時、日本中でディスコが流行っていた。ススキノにあった「パブウエシマ」「ニュージャパン」などへ通っていたのだった。頭の中で、サウンド、スポットライト、女達や男達などが華やかで、意識が上昇しているのだった。ディスクジョッキーは間断なく大音量でレコードをかけていた。ホールで大勢の客が休むことなく大粒の汗を滴らせながら踊っていた。

 札幌に着くとホテルにチエックインし、夕食を済ませると7時過ぎにディスコクラブへ向かった。大型飲食店ビル内のクラブに入り、もう少しで満員になる。ショータイムだ。
 ドライマティーニを呷り、さぁいくか、とクネクネしながらホールへ向かった。デキソコナイの自分のくせになるべく中心辺りに立って位置を決め、踊り始めた。爪先を床に付けたまま踵を交互にスッコ、スッコ、スッコ、スッコと浮かせて身体を左右に揺らせながら踏み込んで踊るそれはとても心地良く、解放感と共に思いの意識が上昇していった。その意識は飛び交うカクテル光線の中を泳いでいた。最高じゃないか! タコもイモもビケイもイケメンも皆一緒なのだ。面白くて気分がいい。信じ難いことにぼくは紛れもなく「オレはスターだ!」と90%以上の確信で、憂いを漂わせながらして踊り続けていたのだった。どうしてオレはこんなにカッコいいのかと思い、身体が熱かった。大粒の汗が頭皮から額からそして胸も背中も大量にあふれては流れていったのだった。その反面、なんとかしなくては、なんとかしなくては、と思いつづけていた。
 自分のダメさ加減とか不浄さとかバカサカゲンとかなどが、怒りでもって溶かされようとしているのか。こんな状態で生きてゆくしかできないのかと激しく煽られていた。そして心の底では哀しくて寂しかったのだ。もう40年も前のことだった。

◎プロフィール

帯広市出身。自営業。文筆家。趣味/映画・街歩き・旅・自然光景鑑賞。著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)。銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)。

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