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エッセイSP(スペシャル)

意識朦朧の中でたぐり寄せるもの

梅津 邦博

2019年1月21日

 昨秋、自覚症状などないのに健康管理の為にと心臓CTを受けた。その結果、思いがけないことに冠動脈に石灰化が発見されてバイパス手術が行われた。

 それは、重く深い世界の底から浮上させられているようにしてゆっくりと目覚めていった。「オレ、生きているな…」と思い、気が付くとICUにいることがわかった。圧さえつけられたような感じでぐったりしていたが、意識朦朧の状態だった。そのうちに何か不安が湧き上がり、動悸がはげしくなってきてこれはあぶないのではないかと、看護師を呼ぶのに呼び出しブザーがどこにあるのかわからず、指先に挟んだ小さな脈拍計をベッドのパイプ部分にカンカンカンと叩いて知らせる。看護師が来て、
 「オレ、シン…パク…ガ、ハゲ…シイ、ダイ…ジョー、ブカ…」
 麻酔の影響で声が出ず、息だけになっていた。話が伝わらず、書く手振りをすると小さなボードに止めた紙とマジックを持ってきてくれたので、なんとか書いて伝える。そして「だいじょうぶですよ」といわれた。
 朦朧としているのか夢なのかの中で、誰もいないのに見えざる何かが、両足親指の腹を1回ずつツンツンと軽く突いて両肩も突かれた。やがて何かの言葉やフレーズが目に浮かんできた。伸ばした細い帯のような物に短い文が記してあり、それが斜め前へ、横へ、後ろへ、と一直線にスーッと流れていき、一文字などは魚のようにひらひらと泳いでゆくのだ。何故か、あぁ待ってくれ、と思った。時は刻々と流れつつ、言葉たちが現れては消え、また現れる。そんなふうに見えているそれは、言葉の核の世界のようなところではないだろうかという気がしてならない。何とかして捕まえて書いてゆかなくては。
 麻酔が残っている状態の頭や体が懸命に捕まえようとして、枕許の厚紙とボールペンを取ってはふらふらしながら書いていた。それは浮かんで見えている言葉をなのか、それともそれによって何か思い付いた言葉をなのか、どちらなのかよくわからない。字や文になっていなくとも、後でそれなりに解ればいい。そうして2行3行と進んでゆく。なんとしても言葉たちを失ってはならない。それはぼくが生きてゆく根幹のようなものなのだ。哀しいことや辛いこと、どうしょうもないこと、そして嬉しかったことや感動したことなどの中で、ぼくは言葉を追いかけて文章を綴ってきたのではないか。言葉がなかったら今日までこうして来ていないのではなかったか。
 やがて一般病棟に戻った。少しでも動くたびに身体があちこち痛くてならない。退院までの間に下書きを5、6点ほど書いた。

◎プロフィール

帯広市出身。自営業。文筆家。著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)。銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)。趣味/映画・街歩き・旅・自然光景鑑賞。

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