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エッセイSP(スペシャル)

追いかける

梅津 邦博

2016年8月 8日

 人生もすでに半分過ぎてしまっている。それでもまだまだ若い気でいるし、元気だ。仕事をする、どこかへ出かける、何事かについて考えるなど、ただ若い時のようにはいかないということがある。ちょっとだけ力が弱くなってきているぶん気持ちは柔らかいと言いたいところだが、年齢とともにかたくなさが強くなっているところもあるだろうといくぶんイヤな気もする。
 しかしホントのところは「自分はこれからどうなってゆくのか|」と思い、そのことで気持ちが沈みがちになってゆく。今まで一体何をしてきたのだろうか。自営業をしているが、二、三十代の頃は想念が至らないことで仕事が上手くいかない年月があった。聴力が弱くて人との会話も下手である。内向性もあるその反動で、郊外ロケーションを眺めたり本を読んだり、酒も飲みつづけていたのだった。
 仕事を発展させるために転機のようなものがいくつかあったが、乗り切れなかった。それなりの借金もあったし、支払いが滞っていた。仕事に出ても確実性のないようなさまにもうどうしようもなかった。どうなるんだろうという漠然とした不安にいつも苛まれていた。ま、一言でいえば努力が欠落していた。
 やがてそうしているうちにいつしか何かが忽然としてきて立ち上がりはじめてきたのだった。
 「何としてでも仕事の実績を挙げて行かないともう後がない」
 新しくさまざまなところへ営業に向かっていた。業界としては斜陽産業とされていて、廃業など余儀なくされてゆくところが多い。そういう中において自分は少しずつと動き出していった。なんだかんだいっても需要はあるのだ。不足しているならば開拓しなくてはならない。努力してゆこうとする力がときおり弱くなりかけてゆくが、その度に懸命にリセットしてゆく。タナボタなどあるはずもなく、自ら立ち上がる以外に方法はない。
 業務連絡で取引先である北海道営業所の所長と電話でいろいろと話しをするなかで、彼は
 「社長、このごろは余裕ですね…ずいぶんと忙しいんじゃないですか」
 と言った。
 「何をバカなこと言ってる、どこが余裕なのだ。それにオレは社長なんかではない、そういう言い方はやめろよ」
 取引先という相手があるからこちらも仕事をさせてもらえているのだ。毎月毎月、支払いなどやることはきちんとやってゆく。こちらの要望に向こうは全面的に応えてくれて、助けられてもいる。
 ある日の朝食時、朝刊を1面から眼を通し、下段に週間誌の内容広告があって大文字見出しの一つに眼を見開いてしまった。「老後難民」とあり、脇の小文字見出しには「家や多少の貯蓄があっても老後難民になる」とかなんとかあった。大きな息が漏れた。
 納豆をかきまぜてご飯にかける。粘りが大事だ、と自分に言い聞かせる。季節は常に巡ってくる。生きてゆくのだよ。

◎プロフィール

帯広市出身。自営業。文筆家。
著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)
銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)

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