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エッセイSP(スペシャル)

さみしいな

梅津 邦博

2016年5月16日

 晩冬のある日々、カゼをひいていた。身に染みるようにわびしく物哀しい気分がしてたまらない。
 茶の間のカーペットにて横になっていたぼくは、母上に、
 「だるくて、つらくて、なんていうかさみしいな」
 すると座卓で何かの資料のようなものに眼を通していた母上は、
 「なにぃ、おまえは気が小さい男だねぇ…」
 と、眉間にシワを寄せてあきれているのと怒ったのとが一緒になったような顔をしていった。そういわれていくぶん引いてしまった。
 「しょうがないでしょ、だるいんだから」
 たとえば客観的に見て座卓にて合せ着物姿の男が斜めにやつれたような感じで俯いたりしながら何事かを考えていると、それは大正時代の文士みたいに見えるかもしれないが。比較するつもりではないが、ぼくは肘も膝も伸びて膨らんだジャージー姿で髪はバサバサの虚ろな目で窓外を見ていた。
 「早く春が来ないかな」
 とにかく行き付けのI病院へ行った。受付後、ちょっと小柄で細身のチャキチャキタイプのトモミさんというなじみの看護師が現れた。いつもいろいろとわかりやすくアドバイスしてくれてありがたい。ぼくは要領を得ずモタモタしているように見られているのか、「じゃ、こちらへ」と手首を掴んで山羊みたいに引かれながら奥の個室へと連れて行かれた。つまり隔離室へ入れられたのである。彼女は綿棒2本分くらいの長さのを鼻腔に差し込み、ねじまわして引いたのを持って処置室へ行った。戻ってきて「インフルエンザです」と答えた。看護師たちの仕事を思えば、あらゆる患者に対応し、薬、道具、処置など、間違ったら大変だなと緊張感をもって感じられる。
 そこへ院長が見えた。太めの体形に上下の白衣姿で、なんだかアメリカTVシリーズ「スタートレック」のカーク船長みたいに見える。彼はいくぶん顔を背けて俯き加減に、それは照れているような気恥ずかしそうなふうにも見えるのだが。いやはや、そんなわけはなく、実は感染しないようにしているわけで、そして「インフルエンザです!」と威厳をもっていった。
 そういわれて、そうか、こういう状態がインフルエンザなのか、と初めて知った。ということは今までの人生において何度もかかっていたにちがいない。そのたびにウィルスを撒き散らしていたのだな、という気がしてきた。仕方がない。検査しないことにはわからないというところがあるからややこしい。それにしても母上は感染していないのだ。どうしてなのかな。
 帰宅したが、雪が降り積もっていたので雪掻きをそれなりにした。しないわけにはいかない。汗をかき、また少し具合が悪くなった。よく雪掻きをしたもんだな、と思った。布団を被った。
 薬が効いているらしくて発汗し、少しラクになってきた。もう春だった。

◎プロフィール

帯広市出身。自営業。文筆家。
著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)
銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)

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