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エッセイSP(スペシャル)

クラス会で

吉田 政勝

2015年8月31日

 恩師が今年八十歳になる。節目を祝って小学校6年のクラスメイトが集い、先生を囲んでの懇親会が帯広の某ホテルで開かれることになった。
 先生は道北方面の学校で教鞭をとり、退職後、十勝に戻ってきて暮らしていた。10年前に、先生を招いてクラス会が開かれた。3年前は喜寿を、そして今回は傘寿を祝うことになった。
 14人の出席者があり、懇親会は5時に開始した。進行は代表のJ君で、先生の挨拶がすんで、当時の学級委員長のK君が乾杯の音頭をとった。「先生を見習って、ぼくらも健康で長生きしましょう」とグラスをかかげた。
 会食が始まると、隣の席がひとつ空いていた。やがてT君が姿を現した。席に腰掛けたので、遅れて何かありましたか、とたずねた。彼の妻から「主人は耳が遠くなり厄介かけますが、どうぞよろしく」と連絡を受けていた。「札幌にきたら連絡よこしなさい」と彼は応えた。会話がスムーズにゆかない。やはり、T君は難聴のようだ。先生は退席され、皆でエレベータまで見送りをした。
 二次会は別ホテルの13階の夜景が見えるカラオケである。ここは予約から仕切りまで私が担当だ。T君はビールとウィスキーを飲みながら、たばこを吸っていた。T君の頭上だけが白い煙りがたちこめていた。脳いっ血で数度倒れて入院したと聞いていたので、彼が酒類を飲んで大丈夫かと思った。そのカラオケルームでは彼は異質な存在だった。靴を放り投げたり、おばさん女子の躯をさわったりする。卑猥な言葉までいう。彼女たちは顔をしかめて嫌がっている。周りで行儀の悪いT君をたしなめるが、その声は彼の耳には聴こえていない。退室の時間がきて、私は会費を集めて受付で精算した。
 このまま、おひらきでは歓談も少なく消化不良だと思った。和やかで語りあう時間を作らなければと考えた。するとJ君がT君を連れて、街へ消えていった。酔ったT君を彼の泊まるホテルまで送っていった。
 残された私たちは、焼き鳥屋へ向かった。後からJ君も来た。女子たちがいう。「T君は歳とると個性にさらに磨きがかかるよね~」「彼はさびしがり屋だからね~」ともいう。私は「さびしがり屋はしつこいよ」と笑っていう。
 若鳥の炭火焼きをほおばりながら、近況や学生時代の思い出に話が弾んだ。自分の話は後回しで、知らなかった話を聞くのが実に楽しい。
 ふと、入口に視線が向き、T君が顔を出し「おれを外して、ここで楽しんでいるのか~」という妄想が浮かんだ。

◎プロフィール

(よしだまさかつ)
北海道新聞「朝の食卓」元執筆者。十勝毎日新聞「ポロシリ」前執筆者。「流転・依田勉三と晩成社の人々」刊行。

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