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エッセイSP(スペシャル)

出会いと別れ

冴木 あさみ

2015年3月 2日

 行かないと決めていたペットショップだったのに、何がそうさせたのか会社帰りふらっと入ってしまった。ケージの中の犬、猫の赤ちゃんたち。ガラス越しに目が合うとじっと見つめてくる。声をかけてくる店員さんには愛想のない顔をして、一通り見て回ると店を出た。冷たい夜風の中を歩きだすと胸にこみ上げるものがあり、ネオンがにじみ涙が流れ続けた。
 出会った数だけ別れがある。それは人間関係に限らない。土地も住む家も、そして同居する動物も、未来永劫のお付き合いというわけにはいかない。ペットはペットではなく家族だと言い切る人もいる。実際私も長年飼っていた愛犬をペットという名で呼ぶのには違和感があった。
 心臓に欠陥が見つかったのは偶然だった。生後間もなく我が家の家族になったワンコは一歳の頃からアレルギー体質であることが判明し、以後ずっと病院通い。食餌療法を始め様々なシャンプーを試したりサプリメントを飲ませたり試行錯誤を繰り返しても症状は変わらない。食物アレルギーが顕著で、鹿肉やターキーも試したが、すぐにその食材もアレルゲンとなってしまうというイタチごっこ。暫くしてアレルギー犬向けの手頃な値段のフードもペットショップで手に入るようになり、そのうちの一つが体質に合うことが分かってだいぶ改善された。食事以外にも季節の変わり目や湿度、散歩道に生える雑草にもアレルギーを誘発するものがたくさんあった。シニアになってから予防接種にアナフィラキシーを起こすようになり、十歳の頃からは狂犬病の予防接種にも反応するように。接種後三十分でショック症状が現れ処置のため二~三本の注射を打つ。小さな身体にいろいろな物質を注入されるのだった。薬が欠かせず、年一度の健康診断の際、心臓の欠陥が見つかった。思いがけない心臓の病気。いつ突然死するかもしれない可愛い家族との毎日がより一層大切な日々に感じた。
 長生きできないだろうという予想を嬉しいことに裏切ってくれて十五歳と三週間、寿命で天に召された。歩行が出来なくなりおむつを当てるようになってたった二週間後。寝たきりの生活が始まったら会社を辞めて看護しようと覚悟を決めた直後のことだった。今は小さな骨壺に収まってここにいる。
 札幌の街が芽吹く頃、一周忌を迎える。最期の時間身体を横たえていたベッド。洗濯をしてもあの子の残り香が淡く匂う服。処分するにはまだ時間が足りない。

◎プロフィール

さえき あさみ
札幌市在住。福祉事業所勤務。
今年は地面を蹴って羽ばたく年に。
就寝前の読書は最近暫く敬遠していたフィクションの世界に浸っている。

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