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エッセイSP(スペシャル)

黄色い大きな鳥

梅津 邦博

2014年8月11日

 7月下旬、数年振りに車で日本海へ向かった、目的地へ行こうとするその行為は何故かどことなく誕生や破壊とか再生というイメージにも似ている。場所は石狩管内浜益村毘砂別の高台にある岩場の海遊広場で、4時間もかかる。
 そこでなきゃならない特別な理由はないが、水温の高い日本海で遠浅で水がきれいでしかも帯広から最も近いところだからである。
 若い頃の軽さなどなく、海へ行こうと思ってもなかなか動けない。そうするのにさまざまな現実がぼくを煽り立ててしまう。海へ行くのは遊びでもあるけれど、その行為の質は少しちがう。日常とはちがう異界へ行くということを意味し、そのとてつもない世界に身を置くということでもあるのだ。

 曇り時々晴れだが、風が強かった。テントがグラグラと揺れつづけ、あちこちで飛ばされているところもある。風がぼくのすべてを攻めつづけている気もする。生きていることに充たされていない。いや、充たされる人生など存在するわけがない。わかっているはずなのだ。想いの内側にあおくささもあってあきれてしまう。
 生業は景気が良くないからではなく、ただ単にドリョクがフソクしているだけではないか。自分は使われている身分ではなく、自ら収入を得なくてはならない。ともかく、どうあれ復活してゆくべく挑戦しつづけている。ストレスを抱えつつも相手側から徐々に反応も来ていて、営業を重ねてゆく日々である。
 広場の前を右側に沿って下ると砂浜から海面へ小舟を下ろせる小さなコンクリート斜面があり、その左寄りに大小の岩山がある。
 少し素潜りをした後の夕暮れ時、岩山の高いところにいた。金色の光の道が手前まで延びて、少しうっとりしながら青春時代のことを想い出していた。夕陽が当たる岩場の前面は明るさがあっても寂としていて、岩場の背後は逆に夕闇になっていた。巨大な天空と海の世界に一人で佇んでいたぼくは、そのあまりに大きな世界ゆえに、さびしくてならなかった。
 ふと北側に遠く離れた砂浜の海水浴場から、大人一人だかが乗れるような大きな黄色い鳥の形をした浮き袋みたいなのが沖へと風に流されていた。しかも鳥の顔が進行方向に向かったまま真っ直ぐ進んでいることに可笑しくてならず、それになんだかディアトリマみたいにも見えて面白い。浜ではそれを眺めている何人かがいる。眼を離した隙に流されてしまったのだろうか、もう取り戻せない。
 ぼくの人生も本来居るであろうと思われるどこかの位置から離れていた。自らの想いと五体があるわけで軌道修正しながらそのどこかへと戻ってゆかなくてはならず、生きてゆくために向かっているのだ。太陽を追いかけるのではなく、やって来る方角へ向かってゆくしかない。
 あの鳥はいよいよ沖合に出ていった。もうほとんど見えない。旅に出たのだろうか。たまらないな。  

◎プロフィール

帯広在住。自営業。文筆家。
著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)。

第二作品集、銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)が三月十四日に発刊されました。喜久屋書店/ザ・本屋さんにて発売中です。

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