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エッセイSP(スペシャル)

向こうの人

冴木 あさみ

2014年5月12日

 私の勤める福祉事業所では、通所する利用者は各自好きなものを作成している。一人の利用者が豪華な帯地で手の平に入るぐらいの四角いものを作っていた。コインケースのようだがそれにしても小さい。聞くと棺桶に入れる小銭入れとのこと。火葬に際して制限があるにもかかわらず、こっそり忍び込ませる人がまだいるようだ。この金を『三途の川の渡し銭』あるいは『六文銭』と言うらしい。地獄の沙汰も金次第ということわざがあるが、あの世へたどり着くにも金が要るとは…。
 ちょうどそのころ私の親しい人の母親が亡くなった。卒寿を超えても最後まで一人暮らしを貫いた。高齢者の一人暮らしは元気であってもそれなりの援助は必要だ。徐々に認知症も出てきて、離れて住む家族の心配と毎日の手助けは心身を削るようなものだった。でも最後は本人の望むようにしてあげたいと、病院や施設の協力も得て家族全員参加でやり遂げた。なんと幸せな最期だろうと、この母親の死を悼むと同時に尊敬し、また羨ましく思えた。
 長生きはしたくないけれど、こればかりは神のみぞ知る。自分で決めることはできない。どんなに努力してもなかなか思うようにならないのが人生の最期だ。終活という言葉も広く世間に浸透し、終活セミナーに人が集まるほど自身の死を真正面から考え、葬儀までデザインする時代になってきた。身の回りの整理をすることで遺産を巡る骨肉の争いを避けるという目的もあるが、まず自分自身が納得のいく最期を迎えたいという気持ちの方が大きいのではないだろうか。
 私の事業所には数着の旅立ちのドレスが保管されている。大切な思い出の着物を納棺師が着せやすいデザインのドレスにリフォームしてある。縁起が悪いと眉をしかめる人も確かにいる。しかし数人の例だけ出せば、ここまで用意周到な人には簡単にお迎えが来ないようで、皆様ご高齢でもお元気で快活な毎日を送られているようだ。絹のドレスを見ながら残念な点が一つあることに気付く。日本式のお棺に収められると顔しか見えず、せっかくの素敵なドレスも参列者に披露する機会がないことだ。
 あの世というものがあるのかどうか、生きている限りは誰も知らない。死んで向こうの人になってしまえば、何がどうなろうと羞恥心すら存在しない。しかし気の弱い私は見られたくない日記や手紙は早めに処分したほうがいいかななどと時々思う事がある。
 

◎プロフィール

さえき あさみ
札幌市在住。福祉施設勤務。
写経・手話の勉強・南の島への旅行が今年一年の計。

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