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エッセイSP(スペシャル)

陽炎のなかの男たち

梅津 邦博

2013年12月 9日

 

 

 初夏のある日曜日の午前。家に、釧路のハリマヤと札幌のカヤモリが共にやって来た。彼等は前夜、高校時の同窓会があってそれで来たのだ。二人とは、学校は違うが、長い付き合いになっている。

 カヤモリは大学を目指していたが変更し、ビジネス系の専門学校に入学した。のちに道内トップレベルの温泉ホテルに就職し、札幌営業所長で活躍してその後再雇用で現在に到っている。

 ハリマヤは高卒後、札幌そして東京で生活していた。

 ぼくは卒業すると札幌で服飾業界に就職し、彼等に時々会っていたが自分のワガママさや見解の相違などから揉めることもあった。彼等も進学や将来についてなど様々な悩みや不安のなかにいて、それは樹々からの木漏れ日みたいに光と影を感じさせた。

 後にぼくも東京へと行った。ハリマヤは羽田国際線の貨物運搬アルバイトをし、ぼくは夜間短期専門学校を終えて繊維業界に勤めていた。生きることは満たされないことと識りつつ、やがてお互いにいつしか前後して北海道に帰ってきた。

 

 ランチを食べに行った後、帯広競馬場「とかちむら」へ案内した。観光客が大勢来ていて、ぼくらは中央のテーブル席で休憩する。

 ガス会社に勤めているハリマヤは、半袖Tシャツに長袖スポーツシャツを羽織って半ズボンというラフスタイルである。トイレへ土産物屋へサッサッサッと歩いてゆくその姿は自意識と精力が溢れている感じで、人生におけるアソビノセイシンを大切にしている態があり、登山をこよなく愛しているのだ。

 大人しいカヤモリは存在感はあるのに、しかし気が付くとどことなく目立たなさもあってか忘れかけるところもあるのだ。濃紺無地スーツ姿の彼は、上がり肩で顔がいくぶん埋まった感がし、そろりそろりと歩きながら、いつも人のありようをあるいは何事かについて考えている知性的な男である。

 彼は、十勝拉麺「小麦の木」でタンブラーグラスの生ビールを注文して戻り、グゥーッ、ゴクッ、と飲み、男の機能について語り始めた。

 「…ときにおまえ、ツカッテイルノカ?」

 「何を言ってんだか、眼の前に多くの人が歩いているだろ…」

 ハリマヤは車の運転ゆえにソフトクリームを舐めながら、言い出した。

 「イバリノデカタハ…」

 なんだかセツジツナ年代の世界がテーブルから立ち上っていた。

 暑い昼下がりのなか、陽炎が立ち込めていた。通りの向こうの競馬場建物を見遣った。多くの客が出入りして、輓馬のぬいぐるみを着ているゆるキャラが行き交う人に手を振ったり握手をしたりしている。汗ダクだろうな、と思いつつ自分の今までの至らない生き方を振り返った。

 常にあらゆることは動いているのだった。お互い三人、十五の時からの青春の日々が遠くなりつつ、これからも生きてゆくのだ。

 

 

 

◎プロフィール

帯広在住。自営業。文筆家。
著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)。

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