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エッセイSP(スペシャル)

ひと言・・

たかやま じゅん

2013年7月16日

 

 

 三嶋大社の鳥居を潜ると池で鯉が群れを成していた。ここからほど近い楽寿園で菊人形展を観た覚えがある。「これが里見八犬伝の犬塚信乃、あれが犬飼現八だよ。そして犬山・・」と祖母に自慢すると「よく知ってるね」と褒められた。

 五十数年前、祖母は末娘だった母の元へ来る度に幼い私を城址公園やお堀端を連れて歩いてくれた。「おばあちゃんの家は代々このお城に仕えていた」とか「明治維新のとき小田原を退去して在に移った」とか「系図や鎧櫃は関東大震災で焼けてしまった」云々の話が記憶の中から甦る。

 携帯に一枚の写真が保存してある。祖母に抱かれたお宮参りの写真のようだ。しばし写真を眺めると凛とした着物姿に武家の女性を匂わせていた。あの日、なぜこの三島まで足を延ばしたか・・今となっては知る由もない。

 この小旅行は浅間大社や白糸の滝、羽衣伝説の三保松原から徳川家康公ゆかりの久能山東照宮と駿府城などを訪ねた。バスガイドからの説明は多岐にわたり、富士山の成り立ちや祭神のコノハナサクヤ姫の話。源頼朝の富士の巻狩りと曽我兄弟の仇討。そして神社や文化財を地図で示し、家康の年表などはスケッチブックに手書きがしてあった。

 その博識ぶりを尋ねると「歴史のある土地に生まれ、祖父から話を聞いて育った」とか「仕事で多くの史跡を観てる。みなさんに世界遺産ができた静岡を好きになって貰えれば嬉しい」と話してくれた。誰しも幼いころに祖父母から聞いた話は忘れ難いものがある。

 今回の宿泊は沼津市内のホテルで、その玄関口には石垣が再現されていた。案内板に「三枚橋城外堀石垣」とある。甲斐の武田氏が駿河の拠点として築いた城がここであり、ホテルの裏を流れる狩野川を挟んで相模の北条氏の戸倉城があったそうな。後に徳川家康の天下になると沼津城として拡張されたが、今は市街地となり跡形もなかった。夕暮れの散策で、ホテル近くの公園に本丸址の碑と案内板を見つけた時は、何よりも嬉しいものとなり城への興味は尽きない。

 幼い日、小田原城のことや昔の話を聴きたくて祖母の来るのを待ちわびたものだった。小学生の頃から得意となった科目が日本史であり、いま旅をして行く先々の名所旧跡を垣間見るにつけ歴史への思いは一層強くなった。

 旅先で見聞した知識はこころに残り、バックの中は地元ならではの冊子や書籍で重くなっていた。戻ってから本に目を通し一つ一つ辿ることで新たな発見も少なくない。これは総て祖母のひと言に機縁する。

 

 

◎プロフィール

〈このごろ〉レコード・CD・本を持つ仲間と自分のを納めるには、資料館が幾つあっても足りない。近ごろの会話は「俺たちが居なくなると・・?」であった。

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