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エッセイSP(スペシャル)

ビタミンF・・

たかやま じゅん

2013年6月17日

 

 

 

 

 団塊世代が自分の途を歩み始めた。昔から好きだったことや新たなチャレンジも見受けられる。その中で一人の歌い手に活力を見出す人たちがいた。昨年の五十周年記念に続いての公演は内地から遣ってきた人も少なくない。

 会場の熱気はこれまでにない盛り上がりとなり、ホールに響き渡る歌声は万雷の拍手で迎えられ、一曲一曲にため息すら漏れた。

 人とひとの出会いはたった一言で決まる。十数年前、名古屋の会場で「良かったですね」と話し掛けてくれた方とは今年も再会を果たす。昨年に隣の席から「また一緒になりましたよ」と言った青森の人は斜め前に座っていた。その人から埼玉〜金沢〜岐阜〜大阪の方々を紹介される。

 それぞれが家庭や家族、自身の身体のことなど紆余曲折を乗り越え、一時間四十五分のステージに釘付けとなった。 孫を相手の爺婆が、この時ばかりは詰襟とセーラー服姿に戻っている。花束やプレゼントを渡すタイミングをうかがう後ろ姿は乙女そのもの、握手を貰って引き返す頬がほんのり染まって見えた。

 終演後、すすきの交差点を眺める一角に陣取っての宴は話に花が咲いた。グラスが合わされ並んだ皿に舌鼓を打ち、我を忘れた笑い声はパワーに溢れ、その気持ちの高ぶりは共通する四文字・・「舟木一夫」で結ばれていた。

 いまステージから流れる歌声は、以前にも増して艶やかな伸びのあるものとなり、会場へ足を運ぶ人は「ビタミンFを貰う」と言ってはばからない。

 ビタミンとは人が生存するための必要不可欠な栄養素であり、テレビ通販でも数多紹介されている。ここでのビタミンとは「情熱の源」と言って過言ではないだろう。

 昔のことに囚われていると発展することを恐れてしまう。好奇心を持つと閃きが湧き人との接点も生れ、過去を活かせ現在の立ち位置から未来へと繋がって行く。うつむいて歩いても何も得ない。目線が上がってこそ空の青さや木々の緑、草花に季節の移ろいを識る。

 二次会への足取りは知らず知らずに速くなっていた。夜が更けるのを忘れ、囲んだテーブルをマイクが行き交い、締め括りの「高校三年生」は大合唱となり皆が一つになった。

 翌朝には一番列車で三時間ほど揺られ、次の公演先に駆けつけるそうな。補給したビタミンは内燃させてこそ価値があり、この行動力を見習いたいものだ。

 

 

◎プロフィール

〈このごろ〉映画「じんじん」は、月の名勝・松島と絵本の里・剣淵町を舞台に父娘・友情・地域の活性が笑と涙で描かれている。寅さんが家庭を持つとこんな風かな?と思いつつ観た。

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