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エッセイSP(スペシャル)

仰ぐ・・

たかやま じゅん

2013年4月15日

 桜前線が春の訪れを告げた。「花は桜木、人は武士」と一休禅師の言葉にあるように桜は侍の潔さに喩えられ、山河に彩りを添える。ふるさとの小田原城も桜の真っ盛りだろうと想いを馳せながら富士山を眼下に西を目指す。
 福岡空港に降り立ち、九州をSの字に三泊四日で縦断するツァーバスに乗り換える。満開を過ぎてしまったかなとの心配も至る所に桜の木を見つけると嬉しくなった。
 太宰府天満宮を参拝し、九十九島を船上から眺め雲仙普賢岳の散策。島原湾をフェリーで横断し肥後の地へ渡る。噴煙を上げる阿蘇中岳の雄大さは四十数年ぶりに修学旅行のあの日を思い出させてくれた。バスが街の雑踏を抜け、薄紅色で覆われる熊本城の外郭が近付くにつれ気持ちが高ぶってくる。
 あの時は車窓から通り過ぎただけで、この旅で最大のお目当となった日本三大名城に数えられる天守閣を目指すと足どりは自然に速まり、高く反り返るよう組まれた石垣は侵入者を防ぐ「武者返し」と呼ばれ、類まれな曲線を見上げる心のふるえは抑えようがなく、今まで見た城とは違った美しさと勇壮さが胸に迫ってきた。
 限られた時間の中で天守閣に登り、櫓の向こうに城下町を望む。別名「銀杏城」とも呼ばれる由来となった大銀杏。朝鮮出兵での水と食料不足の経験から、城内に掘った井戸は百二十二か所に及び、土壁には干瓢を塗篭め、畳床には里芋茎を用いて戦時に備える周到さは城造りの名人と謳われた加藤清正ならではのもので、人々は尊称と親しみを込め「清正公さん」と呼ぶそうな。
 戦国の世は他国から攻められ落城ともなれば、自らの首が無くなるだけでなく一族や家臣、領民の全てを失う。武将は領地をいかに治め繁栄させるか、開墾・治水・地産に心血を注ぎ、城下を整備する築城術は「想定外・・」などと戯言を唱える現代へのヒントがあるように思えてならない。
 国内に現存する十二天守閣の内で国宝が四つあり、その中の一つは世界遺産に認定されている。戦前にあった国宝天守の六つは空襲で焼失し、それ以前の戊辰戦争や西南戦争で失われた一つが熊本城の天守閣であり、保存されていたとすれば間違いなく国宝となったであろう。
 西郷隆盛をして「おいどんは新政府に負けたのではない。清正公に負けた」と言わしめた天守や櫓を支える石垣の一つ一つを仰ぎ見ながら、一片二片花弁の舞う坂道を後に、次の目的地となる高千穂峡から桜島へ向けバスは走り始めた。

◎プロフィール

〈このごろ〉積み上げられた雪山が低くなり周囲に明るさが戻って来た。北海道の開花予報は平年並みとのこと。雪かきで痛めた手首の包帯も間もなく取れそうな。

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