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エッセイSP(スペシャル)

怒る人

吉田 政勝

2013年4月22日

 眠れない夜はラジオを聴くことが多い。暗闇で目を閉じているとつい耳をそばだてる話題もある。最近、ラジオで聴いたこんな話に感心した。
 中華料理の店にある男が入ってきて、ラーメンを注文した。ややすると運ばれてきたラーメンを口にした客は、
「こんなまずいラーメン食えるか」と怒鳴った。店主はいぶかしげに客に近寄り、どうしてまずいのですか聞かせてください、と声をかけた。
「実は、津波で家を流された。私は中華料理の店をやっていた……」と客は述べた。災害で家を流され営業もできなくなって絶望的な気持ちで、やるせない怒りが充満していたらしい。店主はその客の話を聞いて同情した。
「あらたな気持ちで、このラーメンを食べてみてください」と店主は言った。食べだした客は、うまい!、とうなずいた。
男は中華料理店の営業ができなくなり、自らの主観で「審判する心」「ダメのレッテル貼りする心」が同業者意識で働きだし、何かを言いたくなったのかもしれない。
 私たちは、自分の弱さや傷つきなどを隠し、感情を爆発させることで自分を守る場合がある。抑えこんだ感情は出口を求めている。怒りの背後にどんな痛みや傷つきがあるのか。罪悪感、不安、無力感、周りから愛されていないという疎外感……。
 怒りの鎧(よろい)を脱いだ人は弱く傷ついた裸の人だ。その自分をしっかり意識し、怒りで武装しないで傷ついた自分に寄りそい自分を大切にする自覚も必要だと思う。
 動物は、自分より強い相手には攻撃しないという習性がある。人間社会もしかりだ。弱い相手、反撃できない立場の人に怒りをぶつけることが多い。上司が部下を怒鳴るが、部下が上司を怒鳴ることはありえない。もちろん社員が社長に向って怒鳴ることもない。力関係が歴然としている。新人社員は仕事がおぼえたてで怒鳴られることがあっても、先輩に口答えできない。会社や職場内では階級や上下関係が支配の要諦だが、そればかりが強固になると窮屈で、冗談も言えない職場になってしまうから難しい。
 日本も近年ますます格差が広がった。
 私は格差社会の弱者の側にいると認識している。妻は病気をかかえているし、自営だった私は競争の拡大と価格破壊の荒波にのまれてほとんど仕事を失った。そして今はメニエール病という持病をかかえて働いている。人生の敗者という自虐的な自覚さえある。
 傷心の私だが理不尽なものへの怒りはあっても弱者への攻撃衝動は起きない。弱者は私自身の投影だから。傷ついている人や反撃できない弱い立場の人を攻撃して気をはらしては卑怯という、人としての思いがある。
 

◎プロフィール

今、私は人生の転機にあるのかもしれない。体が不調なのに無理をしている。一方でライフワークという総仕上げの意欲もある。

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