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エッセイSP(スペシャル)

粋な・・

たかやま じゅん

2013年3月18日

 花弁雪に芝居の殿堂が佇む。さっぽろ雪まつりの大雪像で登場した五代目の歌舞伎座。視覚効果は充分なのに聴覚に響くものがない。観光客らしき女性たちの「長唄が流れていたら粋なのにね」との会話に頷いてしまった。
 歌舞伎は京都で出雲の阿国が踊ったのが始まりとされ、やがて浅草の猿若町に芝居小屋が建ち並び、江戸三座と謳われるほどの隆盛をみた。その事跡を専門家から個人的に案内して貰える機会に恵まれた。
 千歳を飛び立ち、久方ぶりの上京は再会尽くしとなった。初日が梅の香漂う故郷の小田原城と同級生の包丁さばきで舌鼓、中日は亀戸天神近くでの社友会に「やぁやぁ~」と久闊を叙し、楽日に渋谷で旧友とよもやまの話に興じた。
 大詰めは三年前に知己を得た台東区の郷土史家の代田照彦さんと金龍山浅草寺での邂逅。地下鉄でお上りさんよろしく乗り換え口を訊く自分に苦笑しつつ、浅草に辿り着いたのは午前九時。短時間の順路と資料が揃えられ、歌舞伎狂言作者の河竹黙阿弥の住居跡から解説が始まる。仲見世で江戸時代から続き、唯一浅草寺の山号が付いた和菓子屋など今まで知らなった浅草の歴史が拡がっていた。
 道すがらに残る芝居の小道具を扱う老舗の会社や舞台で舞う紙吹雪を作る商店に、役者だけでなく歌舞伎を支える息吹が伝わってくる。
 その昔、大名下屋敷跡に「中村座」「市村座」「河原崎座」などの小屋が建てられ、周辺には芝居茶屋が立ち並び江戸の賑わいを見せた土地だが、今は近代建築に囲まれた一隅にひっそりと碑のみが往時を偲ばせ、中村座の系譜を継いだ勘三郎の十八代目が若くして逝ったのも惜しまれてならない。
 江戸っ子の代名詞は何と言っても浅草花川戸の「助六」。勧進帳と並ぶ歌舞伎の十八番のひとつで、市川宗家の九代目團十郎が詠んだ助六歌碑に案内された。「最後に珍しいお宿に寄りましょう」と紹介され、その名も助六の宿・貞千代。敷居を跨ぐとそこは大江戸模様を呈し壁を飾る助六の浮世絵と煙管など、部屋から風呂すべてに粋が施されてある。
 宿主の望月友彦さんのべらんめえ調な口ぶりに驚きを隠せなかったが、北大の出身と名乗られたことから縁を感じた。この宿なら少しは江戸っ子の粋に染まるだろうと思いつつ、浅草を辞した。
 羽田への帰路を回り道し、開場間近な歌舞伎座を眺める。そこが霞んで見えたのは、粋な江戸紫の鉢巻で人々を魅了させた十二代目の姿がなぜか重なっていた。

◎プロフィール

〈このごろ〉再び中学校で合唱を聴く。「先ごろの大会で金賞に輝いた」と校長先生の紹介で、はにかみの中に誇らしさがあり、その歌声は三か月前とは数段違っていた。

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