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エッセイSP(スペシャル)

極寒のある朝

梅津 邦博

2013年2月 4日

 一年前、外科病棟に入院して手術を受けた。そして退院となった。早春が近いその日は朝から落ち着かず、もうあと三日くらいはここにいるべきではないかな、などと思った。身内が車で迎えに来て、家へ向かった。快晴で空間は水色に輝いているなか、車窓から見える家までの道程はどこか寂しい気分がしていた。退院して良かったことにはちがいないのだが、その後も後ろ髪を引かれている気分が何日も消えないのだった。

 科学者のなかには「人はサルから進化して出来た」などと荒唐無稽なことを言っている者もいるが、人というものは、神が万象の厖大な要素を利して創造された崇高な存在である。で、ま、崇高ではないぼくの体内に病巣が発見されてしまったが、病巣が出来たということは、理由はどうあれ肉体を穢してしまったことになるのだ。治療を受けることになり、気持ちの底ではシィーンとなっていろんなことを考える日々でもあった。
 病院というところは尋常ではない異常な世界だと感じている。無味乾燥な病室、仕切りカーテン、検査、手術、点滴、消毒液の匂いなど、異空間ではある。そうは言っても仕方がない。肉体が故障したら治してゆかなくてはならなず、そうしてまた新たなる日々に備えて向かってゆくのだ。当初ひどく落ち込んでいたが、術後いつしか気分が慣れてきて感じ方にも変化があらわれて来た。おとなしく寝ていればいいのかもしれない。体調に応じて医師が看護師が適切に処置してくれるだろう。看護師等には更に身の回りの世話をしてもらったり話し相手にでもなってくれたらいいな、なんて思う。
 退院が近づいてくると、どこか物足りなさが込み上げてきて不思議な気分だった。肉体の不具合はほっとくとやがて命に関わることになるわけで、治療をしてもらったことで余計な不安を払拭することが出来たのだ。医学が進歩しているお蔭で助けていただいたことに感謝しきりである。そういったことの反動ゆえなのか、異空間世界に愛着のような気分を覚えてしまっているらしい。

 新しい年を迎えて厳しい寒さがつづいている。朝、目覚めるとカーテンの向こうは快晴で少し強い風が吹いていた。昨夜しんしんと降りつづいていた粉雪は、夜半には止んでいたのだろう。外に出ると、極寒の世界は薄青色の大空から朝の陽が満ちあふれていた。光がぼくを夢中で包んではずませていた。まるで太陽のかけらが霧状になって耀いているのだった。
 生きているということはただそれだけでも素晴らしいことなのだ、とあたりまえに思えて心地好かった。
 「元気になって良かったな」
 と風がいっそう強くぼくを煽っていた。

◎プロフィール

帯広在住。自営業。文筆家。
著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)。
趣味=素潜り、映画、旅、風景鑑賞

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