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エッセイSP(スペシャル)

いやしの風景

吉田 政勝

2012年11月26日

 休暇の日は、日常とはちがう風景を見たくなる。長距離で街の信号を何度も止まるドライブは疲れる。やや近い距離を念頭に浮かべていると、南ふらのエリアが魅力的なスポットに思えてきた。秋の休日に狩勝峠を越えて、落合を過ぎると幾寅に至った。
 左にハンドルを切ると幾寅駅にたどり着く。そこは「ぽっぽや」のロケ地「幌舞駅」である。浅田次郎の原作「鉄道員」の映画が作られた場所だ。ここは昭和の風景だ。駅の向かいに木造の理髪店と食堂がある。古い駅舎内には映画のビデオが流れ、写真パネルや、高倉健が演じる佐藤乙松駅長の制服が展示されている。
 乙松駅長は幼い愛娘を亡くし、2年前には愛妻と死別していた。職務一筋で定年を迎えるが、成長した愛娘がゴーストとして乙松に会いにくるという物語だ。監督は名匠・降旗康男で、撮影は木村大作。冬の北海道を詩情ゆたかに描いている、その映画を私は2度も観ている。
 物めずらしくロケ地や花壇のあるプラットホームの砂利を踏みしめて歩く。知り合いに出会うはずもなく気持ちも開放的で、バイクに乗ったライダーに「本州からいらしたのですか」と私は声をかけた。「うん、健さんのファンでね」と中年男が答えた。車に戻ろうとすると、父と娘らしい親子の車が横切った。父の趣味で娘がドライブにつきあったのかなと想像した。同乗する若い娘と視線が合った。
 幌舞駅こと「幾寅駅」をあとにして「道の駅南ふらの」に寄ったのが昼すぎだった。そのレストランで、カレー丼とみそラーメンのセットを頼んだ。すると先程の親子らしきふたりが斜め前に座った。何気なくふたりを盗み見ていると、どうも親子のふんいきと違う。
 隣に座る妻が、視線を親子に向けて私に顔を戻すと半笑いになった。帯状疱疹の痛みに9年間も苦しみつづけて、うつ状態で、さらに味覚障害で食べ物の味がわからなくなった病んだ妻がラーメンの汁をすすりながら「少し味噌の味を感じる」とつぶやいた。
 車に戻ると、私は先程の親子らしき2人を我流に解説した。「あれは、親子じゃない。中年男はスナックに通うさみしい常連客で、そこのチーママと会話して、今度どこかへおいしいもの食べに連れてって、と若い女にせがまれたんだ。旭川なら誰が見ているか心配だから、幾寅まで遠出して隠れデートを楽しんでいるという見立てはどうだ」というと、妻は「うん、そうかも、そうかも」と同意した。
 その後、麓郷の森に足をのばして「アンパンマン美術館」を見学した。アンパンマンに登場するキャラクターたちの石像の前や、絵の前に立つ妻にカメラを向けると笑っている。私もいやされていたが何より妻がいやされていた。ドライブに来てよかったと思った。
 

◎プロフィール

 鈴木銃太郎の歩み・小説「オベリベリからシブサラへ」を書きました。原稿用紙百枚。ほぼノンフィクションで「ザ・本屋さん」で販売中です。

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