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エッセイSP(スペシャル)

よみがえる過去(後編)

吉田 政勝

2022年10月31日

 前回の続編になるが、古い家の解体に向けて片付けが続いている。不用な家具は捨てられるが、思い出の写真はやはり残しておきたい。
 その古い写真が出てきた。洞爺湖へ行ったZ社の秋の観楓会だ。ホテルの部屋の窓辺に立ち、浴衣姿の19歳の私が写っている。その前日の出来事を思い出した。
 編集部のY記者に「湖でボートに乗らないか」と私は誘われた。編集部で社長秘書も兼務する若いKさんも乗り込んできた。彼女は短大を卒業して、入社して1年ほど過ぎていた。目がやや大きく肌がきれいな女性だった。私とY記者が交代で漕いでいたが、次第に湖畔からボートが離れていた。
 Y記者は「宴会の時間が迫っている。戻ろう」といって舟首を湖畔に向けた。逆風も吹いてきたので私たちは必死でオールを漕ぎ、疲れきって湖畔に着いた。宴会の時間になんとか間に合ったことがある。
 私の職場はすすきの4丁目近くのビルの3階で営業部に属していた。営業の一部の人は広告の締切日が遅れがちで、月刊誌の印刷発注直前まで版下作りに追われた。ひとりだけの制作部は重責と痛感した。私の窮状を社内でも理解され、打開策として広告の締切を編集部で管理する方針となり、私の机は4階の編集室に移動した。
 編集室に机を置いてから、記者と話をし、Kさんとも会話が増えた。転職により収入が増えて生活が多少なりとも楽になり、部屋に家具などもそろえることができた。米国の通信教育の24回ローンの支払いも完済目前だった。だが、仕事が忙しすぎて肝心の課題制作ができずに提出が遅れていた。
 記者が外出したある日の編集室で、Kさんが「辞めるって噂があるけれど......」と私に声をかけてきた。
 心身ともに消耗していた私は営業課長に退職を相談していた。退職に傾いたのは広告代理店に勤めるH氏が「帯広支局で制作の人を求めている」と紹介されたことで帰郷へと決心がついた。
 3年間住んだ札幌暮らしが終わる、そう思うと寂しかった。無性に海が見たくなった私はバスに乗って石狩浜へ行った。砂浜を歩き、渚に打ち寄せる波をぼんやりと見ていた。

◎プロフィール

 「青春は嵐」だ。人生もまた暴風雨なのかもしれない。/商業デザイン、コピーライター、派遣などを遍歴。モレウ書房代表。 

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