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エッセイSP(スペシャル)

体をきたえる

吉田 政勝

2022年7月25日

 町内にあった唯一の温泉銭湯に通っていた。時々、その浴室で同級生のAを見かけると声をかけていた。
 ある日の夕方、脱衣室でAが着替えながら私に視線を向けると、
「身長どのくらいあるの」と訊いてきた。「179センチかな」と私は応えた。私より頭ひとつ低い彼はうなずいた。「背が高くなったが、特に良いことあるわけでないなぁ」と私がふざけて言うと、Aは半笑いになった。
 今では気持ちに余裕があるが、中学1年の時に同じクラスになったAに私は怯えていた。その頃の私は、小柄で男子20人中の身長が低い順で前から5番目あたりに並んだ。Aは相撲部の大会に出場し、腕っぷしも体も逞しかった。その頃、各クラスには力で他の生徒を制圧する番長などがいた。Aもそんなタイプだった。
 ある日の昼休みに廊下で彼はにやけ顔で私に「おっ、ボクシングやるべ」と誘ってきた。彼は両拳を握り胸の前でファイティングポーズをとった。私は闘う気などなく、「いや、無理」とつぶやき怯えた。気弱な私をAはからかっているようだった。以後、私は校内で彼を避けていた。
 小柄な私がなぜ背が伸びてきたのかと顧みた。中学に入ってから私はアルバイトで新聞配達をしていた。夕刊紙は釧路から貨物列車でわが町の駅のホームに毎日届けられた。麻袋で梱包された35キロほどの新聞の束を肩に乗せて駅前の新聞販売店までの約百メートルを急ぎ足で運んだ。肩から腰にズシリと重みを感じた。伸びる身長が抑えられていた気がした。やがて3年生になり、痩せた体を鍛えなければ恥ずかしい、女子にもてないと思った。
 夜になると、自室で鉄アレイを持ち上げ、エクスパンダーで腕を広げた。仕上げは腕立て伏せを何十回とくり返した。やがて、胸や腕に筋肉がついて、身長もぐんぐん伸びはじめた。
 二十代は運転免許も車もなく、札幌や帰省した帯広で通勤などは徒歩だった。よく歩いたことで脚を鍛えられた。筋肉質の健脚も不便がもたらした恩恵と今では思う。
 長年デスクワーをしてきたせいか、このところ脚力が弱っている自覚がある。近場の用事は車に頼らずに歩くように心がけている。

◎プロフィール

心況(よしだまさかつ)
運動で体づくり、読書で心を育む。商業デザイン、コピーライター、取材カメラマン、派遣業務などを遍歴。 

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