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エッセイSP(スペシャル)

深刻なこと

梅津 邦博

2021年9月13日

 人は人生において様々な出来事があるが、大変なことだと身に応えてならない。人間関係、仕事、何らかの事故ほか、人それぞれであるけれど、いちばん辛くて大変で深刻なことといったらなんだろう。
 自分としては命に関わる健康問題ではないかという気がするのだが、どうだろうか。生命が脅かされること自体、自らの存在が激しく揺さ振られて大きな不安と共に卒倒してしまいそうではないかとも思える。
 早春のある早朝、高齢の母親と二人暮らしの某友人は、驚くべきことに母親がテーブル上で大量に吐血して仰天してしまった。救急車で大手の病院へ行き、CT他各種検査をしたがドクターはこれという話をするでもなく、コロナのこともあり、取り敢えず様子見でいったん家に連れて帰ってみてはということになった。そしてふだん行き付けの病院へ報告方々行くと、院長から胃カメラの検査を受けて下さいと懇願され、いい先生を紹介しますということで受諾した。翌日、先だっての病院へ再び行って胃カメラ検査を受け、すると胃潰瘍での出血だったことが判ったという。そして組織を摘り、どういうものか詳しい結果は2週間後に判明しますと言われ、彼はその間、思いの襞に細かくささくれだったものがざわざわとした意識の波となっていた。やがて治まって落ち着くのならいいが、居ても立っても居られない場合があるのだ。
 誰しも多少のことはありながらもわかりきったことではある。そうやって人は生きて行くことに変わりはないのだ。生活に仕事にとやらなくてはならないこともあるのだった。
 朝食の支度をして食事をする。茶碗洗いをして片付け、そして母親の不安を取り除くべく肩を背中を脚をと軽くマッサージしながらほぐす。そして昼食用におにぎりを一つとおかずも作って添える。それから仕事へ出かける。日中一、二度家に戻って状況を確認する。母親は、ダメージが大きかっただけにマットに横になって寝ていることが多い。声をかけて具合を聞くと、
 「なんでもない」
 毎回そうやって答えるのだが、
 「ホントにか」
 と訊き返す。
 そうして検査結果が出た日、彼は1人で行ってきた。医師は、
 「悪性所見はなかったですね」
 と言って病理組織診断報告書を手渡してくれた。それを見て、「ううううっ...」と小さく唸って仰け反ったという。その後念の為胃カメラでの再検査をし、改めて異常なしとなった。
 苦しかった日々の疲れが少しづつ薄れ始めていき、そうして母親は少しづつ元気になりはじめていった。何とか元に戻るまでに5カ月ほどかかったらしい。
 良かったなと思った。

◎プロフィール

帯広市出身。自営業。文筆家。趣味/映画・街歩き・旅・自然光景鑑賞。著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)。銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)。

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