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エッセイSP(スペシャル)

皇居外堀通りでの肌寒さ

梅津 邦博

2015年11月 9日

 十月二日。ジャーナリストのS氏が席を設けてくれた新橋の「魚金2号店」へ行き、久し振りの再会をした。カウンター席にて立派な刺身盛り合わせが用意されてあり、ビールで乾杯する。お互い酒量はいけるほうではないが、彼が飲む場合はいつも意気込みと緊張感で口にしている感じなのだ。
 あらゆる災害が増えて天変地異の世である。政治は複雑怪奇の様相にまみれ、国民は不安のさなかで泳がされている。集団的自衛権、原発稼働他さまざまな問題が暴れまわっている。
 「…首相として考えてはいるだろうが、結果として次元が民意とは離れてしまっている。権力者病だ」
 「何も考えていない。自分たちの都合でやっているだけだ!」
 語気を強めた彼の眼に力がある。こっちも迂闊なことは喋れない。
 「原発だが、人知で考えた防災など通用するわけがない。災害で放射能が漏れたら、現代の科学力で制御は不可能なのにそれを推進するとは狂気ではないか」
 「その通りだ。政治も官僚も狂っている。だから新聞とかなどは、規範でもあり砦でもある」
 彼はそう言った。
 TPPにしても「国会決議によって政府は守る」と言っておきながら、破壞しているのだ。なんでも政治の都合で壊してゆく。つまり政治は好い加減で実体が見えない世界なのだ。
 時間が経ち、店を出た。皇居外堀通りを歩いていると、いくぶん肌寒さと侘びしさもあった。2羽の白鳥が寄り添って浮かんでいた。
 「池の深さはどのくらいあるのか…5、6メートルくらいか?」
 彼は面白いことを言う。
 「そんなにあるかな、お堀が…」
 「じゃ、1、2メートルくらいかな」
 「飛び込んだら腕か首でも危ないな」
とぼくは応えた。
 金曜の夜ということで、戦争法案反対のデモ行進が大勢の人であふれている。彼らの表情には人間としての素朴さがあった。いったい国民を護るとはどういうことなのか、それは当たり前の日常を壊すなということでもあるだろう。
 ぼくら二人の横を30代かのカップルがジョギングで通り過ぎた。二人は離れず、女はスレンダー体形でポニーテールが左右に揺れていた。
 「あの二人には愛があってああいうふうに走っているのかな」と言うと、
 「違うよ、愛なんかじゃないだろ」
 「でも絵になっているよな…」
 通行人たちの横を縫うように走っている二人が、段々と遠ざかってゆく。ぼくは話ししながらも、上半身を右へ左へと傾けながら彼らを追っていた。まだ見える、まだ見える、と思っているうちにやがて小さくなり、とうとう見えなくなってしまった。少し寂しさを覚えた。
 愛はときには幻にも見えるではないか。実態があって見えないのは政治も同じなのだ。外堀の水面をなぞるゆるやかな風に吹かれているS氏の厳しさの横顔に、やるせなさが垣間見えていた。

◎プロフィール

帯広市出身。自営業。文筆家。
著書 銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)
銀鈴叢書『歩いてゆく』(銀の鈴社)
喜久屋書店/ザ・本屋さんにて発売中です。

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