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エッセイSP(スペシャル)

初夏を迎えて

梅津 邦博

2012年7月17日

 起床すると、帯広の空は清々しさを感じさせるほどに薄青色が広がって金色の光がふりそそいでいた。下界から見上げるその大空はファンタジックな世界でもある。耀く光の強さに、ようやく夏らしくなってきた。
 朝ごはんを食べていると、テレビで帯広は最高気温二十九度になると予想していた。母が、「今日は暑くなるんだね。畑の草取りをしなくては」と言った。
 「暑いからちゃんと水を飲んで、水を…」
 「そんなことわかってる。いちいちうるさいねぇオマエは」
 八十代の母は、暑さに弱いが元気でいつも車を運転している。体調が疲れていても、以平町にある家庭菜園で作業すると必ず元気になって帰ってくる。
 食後、三十分ほどウォーキングに出掛ける。一週間近く雨や曇りだっただけに、気持ちが少し軽やかで明るい。しかしぼくはどうしてこんなにも生き方が下手なのかと思う。聴力が弱いせいか人と上手く関わることが出来ず、会話も締まらなかったり緊張してついうっかり変なことを口走ったりしてしまう。
 家に戻ると、母は畑へ行ったようだ。それにしてもなぜいつもあんなに元気なのか。畑で生きとし生ける物たちのエネルギーでも食べているにちがいない。
 裏庭でポリバケツに水を張って洗剤を入れ、ぼくと母の汚れたスニーカーなど五足ほど洗いはじめる。束子でゴシゴシとやりながら泡立てると徐々にきれいになって気分がいい。自分の中身もそうならないといけないな、と思う。すすいで終わるとサッパリした。クツを物干しポールの下部ブロックに立てて干してゆく。
 熱い陽射しに、熱気が顔からシャツの衿回りにかけて揺れ動いていた。瞼を閉じてしばし頭上を見上げたまま光を浴びる。何かが物足りない感じがしている。冬の対極にある夏という季節には少年のように弾んでいきたい。きれいな水がほとばしるような心地でいたいものだ。ぼくはまだ若いと思っている。二十代の頃のさまざまな出来事が想い起こされてなつかしくもあるが、年月が経っているせいでどこか寂しさが胸の内側でただよっている。仕方がないことだ。
 この美しく大いなる十勝にあっても、社会的なことや年齢的なことなどではなく、自分という人間が持つ生命体として鮮やかでありたい。秋の実りに静まっては何事かを考え、冬は神々しい冷気に鍛えられ、春には眠りから覚めて歩き出し、そうして夏を迎えるとはずむようにしていかなくてはならない。生きてゆくためには自然界の掟に沿わなくてはならないのだ。
 生きるとは「旅」でもある。太陽は燃えながら生命力を与えつつ何かを誘惑しつづけている。ぼくはそれに乗っていきたい。家の周囲に、街に、彼方の大空と日高の山々などに対して、夏の呼吸をしつづけていきたい。そうしてどこかへちょっとした独り旅でも出来たらいいな、と思っている。

◎プロフィール

自営業。文筆家。
著書銀鈴叢書『札内川の魚人』(銀の鈴社)。
夏を迎えました。みなさんはこの夏、いかが過ごされますか。北国の短い夏ですが、良い想い出ができるといいですね。

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