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エッセイSP(スペシャル)

長い道のり

冴木 あさみ

2018年3月 5日

 想像していたよりもかなり寒かった。2月中旬の熊本市。札幌より十度以上も気温が高いはずなのに、なんだろうこの風の冷たさは。
「とっても暑くて、とっても寒い土地なんですよ」
 定年で東京から故郷熊本に戻ったというボランティアガイドの女性がファイルを陽にかざし、まぶしそうに笑った。顔に見える幾筋の浅いしわが魅力的だった。
 熊本地震から約二年。遠い地ではあるがちょっとした所要も兼ねて初めて訪れた。実は二年前の四月に行く予定だったのだが、直前にあの大地震である。加藤清正が築城し日本の三大名城として誉れ高い熊本城。初対面は崩落後となってしまった。
 昼少し前、城下の観光エリア桜の馬場城彩苑に到着。観光客に交じって場にそぐわないスポーツウエアの姿が何人も歩いている。この日曜日は熊本城マラソンだったのだ。事前予約が困難だったため、三泊四日私は連日ホテルを移動するはめになったのはそのせいだろうか。後で調べると当日参加者は一万一千人を超えていた。応援部隊を加えると相当な人数になるだろう。毎晩ベッドで眠れただけでも幸いと思う。しかもどこもありきたりのバイキング朝食とはいえ、それぞれ郷土料理のチョイスも違い楽しかった。定番おかゆの食べ比べ。マイジャッジ最下位のホテルはほとんど重湯で、ゆる過ぎると香の物も旨くはないという発見ができた。
 話を戻す。桜の馬場彩苑内には土産物や食堂のほか、観光案内のデスクがある。一人でも可能というので熊本城のボランティアガイドを依頼した。
「そんなに歴史に詳しくはないけれど、熊本の誇るお城を案内したくてね…」
 城外から、しかも被災した城の魅力を伝えるのは難しい。現在ほぼすべてのエリアが立ち入り禁止で、周囲を半周巡りながら遠目に眺めることしかできない。しかし報道で感じていたものをはるかに超える甚大な被害だということをこの目で確認できた。上物はじきに再建見込みであるが、問題は無残に崩れ落ちた城壁だ。なにしろ修復できる石工がいないとのこと。何十万か、何百万か計り知れない、ガラガラに崩れ砕けた石を全て元の場所に戻すのは気が遠くなる作業だ。そんな人がいるもんだなあと感心するのは、熊本城を愛する市民が長年無数の写真を撮りためていて、それが今後の修復の重要な資料になるとか。当人自分の写真がこんな形で使われることになるとは思いもしなかっただろうに。
 滞在中テレビのニュースで復興住宅の入居者抽選の様子が映されていた。当選倍率三十倍とのこと。復興までの道のりは遠い。東日本大震災もしかり。
「忘れられ取り残されるのが怖い」
 抽選にはずれた老人がマイクに向かって話していた。

◎プロフィール

日に日に日差しが春めいて旅心もくすぐられる。春の海ひねもすのたりのたりかなと海辺で数日過ごしたい。

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