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エッセイSP(スペシャル)

玉屋・・

たかやまじゅん

2017年11月20日

 味の記憶にはオフクロの味、家庭の味と二つ上げられる。私にはもうひとつ玉屋の味があった。12年ほど前まで、名古屋に単身赴任をしていた。寄り道をしない限り夕食は住まいの近くで済ませるのが常となった。
 名古屋駅から地下鉄で15分、「栄~今池・・」と歌の文句にある今池から二つ目が覚王山。タイ王国とゆかりの深い日泰寺の大伽藍が建つ山門の入り口にその店はある。周辺に社員寮や大学を控えることから、若い客も少なくない。テーブルと小上がり、坪庭の奥座敷の店構えで、名物のうどんやきしめんと丼もの、定食は麺類とご飯に日替りのおかずが付く。
 店主のタカちゃんが同い年でもあり、いつしか大女将を母さんと呼ばせて貰った。暑い日も寒い日も玄関をガラガラッと開け「ただいま」と決まって小上がりに陣取る。鍋焼きうどんを頼むと「風邪かね」と母さんには直ぐ分かってしまう。8年近く親しんだ名古屋を離れるとき記念に頂いた目覚まし時計は、いまも私の枕元で時を刻んでいる。
 季節外れの大型台風に遭遇し、再会を愉しみにした人たちとキャンセルせざるを得なく、ホテルの大浴場で時間を過ごす。翌朝には台風が去り、抜けるような青空だが風が強い。ホテルを出て駅に向かうと風にあおられ、慌てて地下街へ潜った。
 地下鉄東山線の覚王山駅に降り立つとエスカレーターやエレベーターが設置されて、道路も拡がりビルが立ち並んで様変わりしていた。近代的な中に昔のまんまの店は変わらず、懐かしい暖簾がはためいている。ガラス戸越しに母さんの姿が見えた。
 改めて店の由来を聞くと大正2年(1913)開業の饅頭屋で、屋号は日泰寺の僧が命名とか。5年後、縁日の賑わいを当て込んでうどん屋を始めたそうな。来年には創業100年を迎え界隈でも老舗の商店になる。息子が後を継いでくれたと3代目のタカちゃんが嬉しそうに話すと厨房から若者が顔を覗かせた。
 ここに通っていた頃、4代目は学生だった。大釜でかつおだしを煮込んだ味は醤油と調和し、私の舌を十二分に満たしてくれた。台風で休校になった将来の5代目?が店で遊んでいる。こうして玉屋の味が護られて行くに違いない。
 空港で出発が遅れた便を待つ間、帰りがけタカちゃんの奥さんである現女将が渡してくれたみかんが甘かった。

◎プロフィール

〈このごろ〉朝起きると右肩が腫れていた。肩甲骨から鎖骨まで痛い。レントゲンは異常なくマッサージを指示される。50肩ならぬ60肩・・

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